泡、香る

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香水の世界に、つけてからの時間によってトップ・ミドル・ラストノートがある様に、葬儀の焼香にも、火をつけてからの時間によって、初香・中香・終香があるらしい。
香りを食べると書いて香食(こうじき)。線香や抹香などのお香を焚いた香りが、故人の食べ物になるという考えだ。
あの世では香りが最も上等な食べ物であり、特に香炉から立ち上る焼きたての初香は、故人にとってご馳走なのだ。焼香も個性の時代、せっかくなら故人の好物をと、果物やお菓子、コーヒーに紅茶、スパイスを配合したカレー焼香まで登場し、湿っぽくなりがちな別れの席を心和むものにしている。

「さあ、召し上がれ」
特製のジョッキ香炉から上る麦とホップの香り。泡立つ白い煙と、長年の飲み仲間の笑顔。
「焼きたてって言うより、注ぎたてだな」
「あっちでも宴会三昧だろうよ」
遺影まで赤ら顔の祖父に香炉を掲げる。
カチン!と景気の良い乾杯が聞こえた気がした。
その他
公開:23/02/06 19:10
月の音色 月の文学館 テーマ:焼きたてですよ ※カレーやお菓子の線香は実在。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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