妬きたてですよ

2
2

私の彼はとにかく焼きたてが大好きだ。
焼きたてのパン。焼きたてのケーキ。焼きたてのお肉やお魚。調理中からキッチンで待ちかまえ、『焼けたわよ』と声をかけるや否や、皿に盛る間も惜しいとばかりに手をのばす。
「火傷するわ。もう少し落ち着いて食べたら?」
「君の焼いたものは、何でも一番に味わいたいんだ」
などと女心をくすぐる様な事を言って、『あちっ!』と顔をしかめつつ頬張る。その満足至極な表情に、私はついついほだされてしまう。

困った事に、デート中の彼はよそ見が大好きだ。
「お、あの子可愛いな」
わざと女心をくすぶらせる様な事を言って、私を見返りながらにやにや笑う。
「今日もうまそうに焼けてるなぁ」
ぷっくりふくれた私の頬をつまみ、『ごちそうさま』とおどける。そのしてやったりな表情に、私は結局丸め込まれてしまう。
「……そのうち本当に火傷するわよ」
私の彼は、やきもちまで焼きたてが大好きなのだ。
恋愛
公開:23/02/06 19:09
月の音色 月の文学館 テーマ:焼きたてですよ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容