噛ませ犬ごはん

2
3

俺がこのキッチンの王だ。
朝は目玉焼き、昼は焼きそば、夜はステーキ。休む暇もない。
夜の洗い物が終わり、やっと俺は忙しさから解放され、壁にかけられた。
「今日も作った作った」
「和洋中と引っ張りだこだね」
壁にかけられたヘラが、ヘラヘラいう。
「俺なしじゃ、ここの食はまわらないからな」
「おい、まただぜアイツ」
ヘラの視線の先では、主人がアイツに油を塗って、熱している。
「毎晚、オイルマッサージとはいい気なもんだぜ。現場にでろっての」
「それな」

ある日のことだった。
『あら、くっつくわ。寿命かしら』
屈辱の一言だった。
その晚、俺とアイツでそれぞれオムライスを作り、食べ比べが行われた。
「鉄のほうが本格的で美味いな。我慢してよく育てたね」
俺はただ使い勝手がよかっただけなの?
数日後、新たなテフロンがやってきた。
『今までお疲れ様でした』
主人の最後の言葉に、加工が剥がれるほど泣いた。
ファンタジー
公開:23/02/05 12:28
毎週ショートショートnote 噛ませ犬ごはん

そるとばたあ( 神奈川 )

★そるとばたあの400字SSは、ことば遊びと文章のリズムにこだわり、音を体感できる物語がコンセプトです!

★第19回坊っちゃん文学賞大賞『ジャイアントキリン群』

★2025年12月、2冊同時刊行の電子書籍
『3分間のまどろみ カプセルストーリー』(Gakken)に『恐竜バーガー』寄稿。

・カプセルストーリー(恐竜バーガー、『菊池

の選択』、六文字の返信ほか)
https://amzn.asia/d/8qmIuR7

・カプセルストーリー(特殊外来種ハンター、カンガルー・ノート、露の楽譜ほか) 
https://amzn.asia/d/iW14MdM

ショートショートの可能性と豊かさが詰まったアンソロジーですのでぜひ!
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容