離島、あの夏の旅

離島に到着した俺は早速驚いた。車が走っていないし、信号機がないのである。移動手段としての乗り物は、自転車だけだ。といっても１０キロ程度で一周できてしまう離島だから、自転車移動もそこまで苦ではない。父の実家があるこの離島にちょっとした夏休みの一人旅としてやってきたのだ。
「おーい、そこのお兄さん」
若い女の人が声をかけてきた。
「はい？」
「私、この島の観光案内役の水島です。よろしくね」
「あっ、よろしくお願いします」
元気が良くて、明るいお姉さんだった。水島さんは、色々なことを世話してくれた。道案内、それからここでの生活の事、更に空き家の父の実家の掃除まで手伝ってくれた。離島での生活は居心地が良くて、つい一週間も泊まってしまった。
「俺、この島。とても気に入りました。絶対また来ます」
「人口も少ないし、住んじゃないなよ」
「あはは。それもいいですね」
実はまた水島さんに会いたいだけだ。