壊れたテレビジョン

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神社の前を通ると、啖呵売らしき声が聞こえた。
祭りでもやっているのかと境内を覗くと、そこには鯉口シャツに腹巻姿のおじさんがいた。
「付くよ付くよと何が付く 門司の港に船が着く」
知っていた口上だが台の上にあったのはバナナではなく、今では殆ど見なくなったブラウン管TVだった。
「お寺の坊さん鐘を突く 私は貴方にしがみ付く」
言い終えるとおじさんはTVを一台叩いた。
その瞬間乱れていた画像は直り、子供の頃見ていたアニメの最終話が流れ始めた。
それはバナナの叩き売りならぬ、TVの"叩き”売りだった。
「おじさん買うよ!俺はこの回を見逃して、学校の話題についていけなかったんだ!」

ツマミを引っ張り電源を入れると、暫くしてまた乱れが生じた。
それから一月、今日も俺は暗く波打つ画面の前にいる。
「これはな、コツがあるんだよ」
去り際におじさん言ったのは、いつか親父が俺に言っていたのと同じ台詞だった。
ファンタジー
公開:23/01/22 21:47
更新:23/01/23 04:59

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