失恋墓地

「恋心、届いていませんか？」
『お相手は？』
「ゴトウ　モサフミです」
『確認します』
ここは鉄道の遺失恋取扱所。
2週間前、彼に対する気持ちが急に冷めだした。そういう時期なのかもと思っているうちに破局し、ここに来た。
『2週間前、網棚の上に忘れられていましたね』
「やっぱり」
毎日、電車では忘れ物が見つかる。網棚の上の鞄、手すりの傘、シートの隙間にわざと隠す乗客も。
電車の揺れは心の揺れ。
なにかの拍子で、恋心を車内に忘れてしまう乗客もいるのだ。
『預かり期間を過ぎたため、失恋墓地に埋葬されたようです』
「そんな」
『失礼ですが、次へ進まれたほうがいい』
「諦めたくないんです！」

失恋墓地駅の改札をでると、目の前が広大な墓地だった。
墓碑の中から彼の名前を探す。
あった！
やっとの想いで恋心を掘り返し、ギュッと抱きしめた。
それからというもの、私は彼を求めてさまよう恋のゾンビとなった。