スポイトライト

「実は私、目が見えないんです」
そう話すと皆驚く。見えているじゃないかとツッコまれる。いやいや、私本当に目が見えないんですって。
今、私の目が見えているのはこのスポイトライトのおかげなんです。
このスポイト、光を吸い上げる事が出来て、吸い上げた光を私の目に一滴垂らすとあら不思議。失明した目に光が戻ってくるんです。
太陽の光では強すぎる。人工の光は眼に合わない。そこで私は水面に映った月の光をスポイトライトで吸い上げては点眼している。
柔らかな月の光が私の目には丁度合う。

その話を聞いた彼がスポイトライトを使ってみたいと言い出した。
「別にいいけど…君が使っても効果は何もないよ。これは失明した人の為の道具なんだから」
それを承知の上で彼は私のスポイトライトを使う。
点眼した彼はさらり「月が綺麗ですね」と、呟いた。
あまりにも自然だったので、それがプロポーズと気付いたのはもうちょっと後である。