冬器

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北国の陶芸家が一生に一度、必ず作陶してみたい名器が「冬器」だ。
冬器の見た目は、青みを帯び美しい水色をした高貴な陶器のようだが、もっと澄んだ透き通った色合いをしており、触ると凛と冷たい。
陶器は「焼き物」とも呼ばれるが、窯で焼く温度や釉薬の変化などによって、その器が見せる形、質、艶、趣ーー景色が違う。まさに陶芸家の創作過程が織り成す美の骨頂だ。
冬器の場合、冬季になると景色がさまざまに変化する。時には深々と降り積もる静寂の雪景色、吹雪のように荒々しい雪景色、爽やかに晴れた朝の雪化粧であったり、雄大な自然のような表情を見せる。
冬器は、永久凍土よりもっと洗練された土、冬土で作られるが、この土を見つけだすのが難しいため「幻の器」といわれる所以だ。
特に最近は、気候変動に伴う地球温暖化によって、冬土は皆無に等しいとされており、冬器の価値は高まるばかりで、蒐集家の間では垂涎の的となっている。
その他
公開:23/01/14 07:01
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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