厭世観

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「生きててもしょうがないもんね」
 彼女はそう言って歪な笑みをこちらへ向けた。
 僕はこの時どう返せばよかったのだろうか。肯定か否定か、何かを発せば未来は変わっていたのだろうか。少なくとも沈黙は誤りだった。誤りだったのだ。
 彼女の厭世観は生来のものではなかったはずだ。幼い頃は彼女は外を無邪気に走り回り、それを傍から眺めるのが僕の日課だった。それがいつしか人前を嫌がるようになった。僕の前を意気揚々と歩いていた彼女は、いつしか僕の後ろに隠れるようになっていた。笑顔の代わりに謝罪が増えて、年が経つにつれ、それを僕は不自然とも感じなくなっていた。そうして彼女の違和感は年と共に日常に溶け込んでいった。
 やっと彼女の悲鳴を聞いたのは十六の頃だった。僕は間違ってしまった。その事実が今も頭に取り憑いて離れない。
 彼女は高いところが好きだった。その裏側に僕だけは気づかなければいけなかったのに。
その他
公開:23/01/07 11:04

籔木 葉

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