卯どん

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大晦日、うどん屋の前を通りかかると威勢のいい声が聞こえてきた。
「今年は年越しそばじゃなくてうどんだよ!」
声がする方を見ると、たくさんのテイクアウト用のうどんが店頭に並んでいた。
「うどんを食べる人も中にはいるかもしれないけれど、年越しはやっぱりそばでしょ?」
「何言ってるんですか、お客さん。来年はうさぎ年、卯年の『卯』の文字をとって『卯どん』に決まりだよ!」
「さあさあ、皆さん、今から実演が始まるから見ていってよ。よかったら、卯どん買っていってね!」
すると、数羽の白うさぎたちが出てきて、サランラップに包まれた白い生地のような上を飛び跳ね始めた。
「このうさぎたちが卯どんのコシを作ってるんだ。卯どんのコシは、博多うどんより強く、讃岐うどんより弱い、ちょうどいい感じに仕上がるよ」
健気にピョンピョンと飛び跳ねる、赤い目のうさぎたちがなんとも愛らしい。
瞬く間に卯どんは売れていった。
その他
公開:22/12/31 07:02
更新:22/12/31 14:37
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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