雪餅

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ある正月、空から突然、餅が降ってきた。
粉餅やら牡丹餅やら形は雪とそっくりだ。
餅は深々と降り積もり、辺りは一面の銀世界ならぬ餅世界となった。
「地上にあった餅が何らかの原因で蒸発して気体となり、上空で冷やされて固体の餅に戻り、地上に降ってきた、水の循環と似た現象」と、気象学者らは説明した。
空から天然の餅が降ってきたから、かきいれどきの餅製造業者は大打撃をこうむった。降り積もった餅を拾ってきて、雑煮やお汁粉に入れて食べる家庭が急増したためだ。
首相が年頭挨拶で「もちつもたれつでやっていくしかない」と、駄洒落のような失言をして餅製造業者の顰蹙を買った。
餅は雪のように滑らず粘り強いので、受験生は合格祈願のお守りとし、子供たちは雪だるまならぬ餅だるまを作って大人気となった。
ある日、忽然と餅が降ってこなくなった。
首相が「これで打ち止め、いや餅止め」と、懲りずに失言して国民の顰蹙を買った。
その他
公開:23/01/02 07:05
正月 水の循環 雑煮 お汁粉 年頭挨拶 受験生 雪だるま

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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