核戦争が始まる三十分前

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電話が鳴った。大統領からの直通電話だ。
幕僚長は緊張した面持ちで受話器を上げると、大統領からの指令に色を失った。
「もう、核しゃーない」
電話の向こう側から女性の声が聞こえる。大統領の愛人だ。こんなときにと怒りを押し殺しながら、幕僚長は大統領に確認した。
「本気ですか。そんなことをしたら、世界が終わります」
「逃げ道はない。もう……終わりだよ……」
電話は切れた。
確かにわが軍は苦境に立たされている。前線は敗走を繰り返し、犠牲者は増える一方。だが……幕僚長は首を横に振った。軍人として反命は許されない。幕僚長は絶望的な気持ちで、核のボタンに向かった。
大統領は妻が近づく足音に怯えていた。愛人はすぐ隣にいる。動揺して、幕僚長への直通電話のスイッチに触れたことに気が付かないほどだ。
大統領は嘆いた。
「もう隠せない……。逃げ道はない。もう……終わりだよ……」
核戦争が始まるまで、あと三十分。
SF
公開:22/12/29 08:31

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