ささやく

恥ずかしい話、私は６５歳にして推し活にハマっている。
私の推しは近所に住む拓哉君。小さい頃から知っている、とてもいい子。
私が重い荷物を持っていると家まで運んでくれるし、こんなお婆さんの話し相手にもなってくれる。
私のお葬式ではいっぱい泣いてくれたし、血の繋がりはないけど孫のような存在よ。
そんな拓哉君がこの春、大学進学のため一人暮らしを始める。
彼ってば両親に負担をかけないようにバイトもすぐ始めるみたい。本当に偉いわ。
だから私、そんな彼を応援したくて彼の住む部屋に「幽霊が出ますよ」って噂を流してもらったの。
誰にって幽人に決まっているじゃない。幽霊が「この部屋、幽霊が出ますよ」って囁くのよ。そりゃ、家賃安くなるでしょ。
もちろん拓哉君の私生活は邪魔しないわ。
ファンはね、推しに対して空気でいいの。壁でいいの。見守る存在でありたいの。
私はね、誰よりも彼の幸せをささやかに願っているの。