映画館と猫その2

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映画館に猫がいた。まるで人間のようにチョコンと座っている。
ぼくと目が合うと、猫はまるで何かをごまかすかのように顔を洗い始めた。
館内は暗くなり、映画が始まった。猫の目はスクリーンにくぎ付けとなり、観客が驚くシーンでは小さく「ニャッ」と鳴き、感動するシーンでは「ミャー」と鳴いた。
どこからどう見ても、映画を鑑賞する人間と同じだった。
映画が終わった。猫の尻尾はピンと伸びていた。
いまにも「予は満足じゃ」とでも言いだしそうな表情をしている。
猫が観客に交じって立ち去ろうとしたとき、スタッフが猫を持ち上げた。
「最近は手口が巧妙になって困ります」
そう言って、猫の解体を始めた。猫の毛皮の内側からできたのは、カメラと通信機。
スタッフはぼくのことも睨みつけてきた。
いやいや、ぼくは人間だ。解体しないでくれ。そう思いながら、靴先を隠しながら映画館を後にした。
ファンタジー
公開:23/07/05 08:39

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