ささやく

レンガ造りのオシャレな喫茶店。祖父の代から受け継いだ自慢の店だが老朽化により立て直しを余儀なくされた…
常連さん達は少し悲しそうにするも、新しく立て直す店もまたレンガ造りにする予定だと話すと嬉しそうに笑ってくれた。

店の取り壊し当日。多くの常連さんがやってきた。
「良かったら、その砕けたレンガを譲ってくれないだろうか？」
そう口々にお願いされる。皆さん、店のレンガに愛着があるようだ。
レンガに向かってプロポーズの練習をした男性。
企画書を手に何度も上司や仲間達と侃々諤々とレンガに意見を吸い込ませた女性。
初デートで大人ぶって初めてブラック珈琲を飲み、レンガにシミを付けてしまったと苦笑いを浮かべる若者。
このレンガには、思い出とささやきが詰まっている。
その言葉に思わず涙が出る。喜びと悲しみの混じる涙を砕けたレンガは受け止めてくれた。
レンガに耳を当てるとそんな思いが聞こえるかもしれない。