思いやり屋

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人通りの多い駅前を歩いていると、異様な光景を目の当たりにした。
見た目はティッシュ配りやビラ配りのようだが、手に何も持っていないのだ。
気になったので声をかけてみた。
「何を配っているのですか?」
「今日は気のサンプルを配っています」
「気!?」
「最近はティッシュやチラシだけでなく、いろいろなものを配っています。配るものの多様化ですね」
「失礼ですが、何も配っていないように見えるのですが?」
「目に見えるものを配っていないからですよ。気は見えないでしょ。受け取れば、あなたは気配り上手になれますよ!」
「気配り上手!?」
「はい、今の時代、自分の存在感を示しづらいオンラインも増えて気配りが大切でしょ。そこで気を配っているのです。試しにおひとつどうぞ」
疑心暗鬼だったが、気らしきものを受け取った。
「三配りの『思いやり屋』といいます。明日以降は心や目のサンプルも配りますので、またどうぞ」
その他
公開:23/07/01 07:10
ティッシュ配り ビラ配り チラシ 気配り サンプル 多様化 三配り 思いやり 心配り 目配り

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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