ささやく

祖母の部屋から話声が聞こえる。お客さんでも来ているのだろうか？
覗いてみると、祖母は壁にかけられた祖父の写真に話しかけていた。
「あ、ごめんなさい。うるさかったかしら？」
『ううん。大丈夫。話し声が聞こえたから少し気になっただけ』
私も祖父の写真に視線を向ける。威厳のあるその姿は写真とはいえ、存在感が凄い。
写真に祖父の魂が宿っているのかも？と思うと、話しかけたくなるのも分かる気がする。
私が部屋を出ると、祖母は囁くように祖父の写真に話しかけるのを再開した。

そんな祖母が１週間、入院する。ちょっとした検査入院だ。定期的なものなので心配はない。
だが、毎日話しかけている祖父の写真が手元にないと祖母も寂しいだろう。
壁にかけられた写真を外し、祖母の荷物に入れようとする。
写真を外して気付いた。小さなひび割れと壁に空いた穴。その穴から何者かがこちらを見ていた。
そいつは「写真を返せ」と囁いた。