完全食

21世紀、完全食ができた。
最初は登山用として発売された。遭難をしたときに、それだけで生き延びていけるからだ。
それはまたたく間に日常へと浸透していった。食欲がないとき、料理を作るのが面倒なとき、なんとなくお腹が減ったとき。
あらゆる時に完全食は食べられるようになった。
完全食で栄養満点になり、もはや普通の食事など必要ない――そんな風潮になって、早10年。
人々は、忘れ去られた料理を求め、戦うようになった。
人の三大欲求、食欲、性欲、睡眠欲。
完全食は完全食過ぎて人の精神まで完全にしてしまい、欲求の気力をみなぎらせてしまったのである。