名聲鑑賞

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ピクトリンガルシステムの開発により、AI解析で絵画の思考音声化が可能になったと聞き、人々はこぞって展覧会へ足を運んだ。
画家達が込めた情熱とメッセージを作品に直接語ってもらう。それはどんな名解説にも増して、刺激的で心動かされる試みだと期待したのだ。

ルーブル美術館では、レオナルド=ダヴィンチの『モナリザ』に向かい、技術者が機材の調整を行っていた。
五百年以上の長きにわたり、謎めいた微笑で観衆を魅了し続ける彼女の第一声やいかに。世界中のモニタの前では、ネット配信を一耳聴こうと、大勢のファンや美術関係者が固唾を飲んでいた。
システムが稼働し、ガラス越しの唇からおもむろに声が流れる。

――その湿っぽく掠れたノイズは、キャンバスを絵筆の滑る音に似ていた。
なるほど絵の声とは、絵の具を置く音に他ならない。滔々と囁く筆遣いに耳を傾けながら、人々は各々の心に描く彼女の、この上もなく美しい声を聴いた。
SF
公開:23/06/26 13:46
月の音色 月の文学館 テーマ:ささやく

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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