失踪したメアリ

　メイドのメアリは元はラーテルだったという藪睨みの女で極めて獰猛で貪欲であった。私の食事を横から奪って貪り食うなど日常茶飯事だ。解雇ができなかったのは彼女と主従関係にあることが私がメアリにとってただの獲物に成り下がるのを防ぐよすがになっているような気がしていたからだ。だから、彼女が結婚するのでお暇を下さいと言ってきた時には小躍りした。穏便に縁を切れるのが嬉しくて心から祝福した。相手は金持ちの太った男だった。しばらくしてその男が訪ねてきた。メアリが失踪したという。そいつは明らかに夫の皮を被ったメアリであったのだが私は気付かないふりをした。夫の中身がメアリの腹の中に収まっているのであれば、メアリが彼の中にいる今、彼の中身はまだあるべきところにそのままあることになる。単に間にメアリが挟まっているだけだ。騒ぎ立てるようなことは何も起こっちゃいない。そう自分に言い聞かせ私はただ我が身の平穏を祈った。