飾り気のない居酒屋

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その店に足を踏み入れると、しかめ面の店主が1人カウンター越しに私を値踏みするような目で見ていた。「うちは看板もメニューもろくにない店ですけど、よくある居酒屋程度のメニューなら大抵作れますんで」
そう言われてとりあえずビールと冷奴を頼んだ。待つこと3分、「はい、腐った麦汁と腐った大豆の塊」とぶっきらぼうな掛け声とともに図太い腕が伸びてきた。店主の言い回しがひどく気になったが、料理の味は意外と悪くない。腹が減っていたので続けて刺身の盛り合わせと唐揚げを注文した。ほどなく香ばしい香りとジュワッという油の音が店内を包んだ。既に私の口はよだれで満たされている。だが次の瞬間、店主はこう言い放った。「お待たせしました。死んだ魚の筋肉の切り身セット、こっちはニワトリの死体から取り出した筋肉の小麦粉包み揚げね」
結局、食欲が失せてしまい、私はほどなく店を出た。この店、道理でいつも閑古鳥が鳴いているわけだ。
その他
公開:23/06/20 04:39

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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