人生は食べたもので出来ている

漂ってくる人んちの夕食の匂いに足が止まる。
ぼくの家はごはんが出ない。ぼくが食べられるのは学校の給食だけ。
だけどぼくは給食費を払っていなくて、給食を食べていいか躊躇する。
それを話すとパパもママも「お前が悪い！」と怒鳴る。暴力も振るわれるから何も言えない…
「坊や、お腹が空いているのならウチで食べてくかい？」
優しい女性に声をかけられた。ぼくは招かれるまま家に入り、出されたものを食べる。
「いい食べっぷりだね。これからは毎日食べに来るといい」
女性のおかげで、ぼくは毎日食事ができるようになった。出されるものは残さず食べた。
「…そのスープ、息子の骨から取ったものなの。息子を全部食べてくれて、ありがとうね」
女性は涙を流す。僕は女性を抱きしめる。
僕は女性の息子だったものを全部食べ切った。僕を構築するものは女性の息子だったものへと変わった。
僕はもうぼくではなく、この人の息子になった。