柔軟剤が必要です

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「柔軟剤だ柔軟剤だ」と言いながら彼はビルのエントランスを抜けると右端のエスカレータを駆け上がり二階ロビーの受付嬢の笑顔は無視して、急ぎ足でホールを横切った。梅雨空で蒸し暑いのにネクタイをぴっちりと締めた真新しいスーツ姿でエレベータに飛び乗った。そのあいだ絶えず「柔軟剤!」と独りごちながらオフィスルーム階でエレベータを飛び出すとカツカツと乾いた靴音で廊下を足早に歩き、すれ違う若い社員に「柔軟剤!」と声をかけると社員は「はっ、柔軟剤です!」と返事する。廊下の突き当たりのガラスドアを開けて彼の自室に入った。
部屋に入ると椅子に座るまでもなくデスクの電話をとって喋りはじめた。「付属病院に行ってほしい。うむ、今からすぐに。柔軟剤を忘れずに」受話器を下ろすとデスク上のグラス一杯の牛乳を飲み干した。デスクに鎮座するオフィスロボットと目があった。ロボットはいつもの口調で言う「柔軟剤が必要です」
その他
公開:23/06/18 09:28

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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