発車サイン音が

「発車サイン音が鳴り終わるとドアが閉まります」未明の街にアナウンス音がひっそりと路上に流れた。都心のオフィス街には人の気配がない。まだ暗い空に街灯がまぶしい。空き缶、看板の破片、折れた交通標識。路上にさまざまな廃棄物が散乱し、もう何日も何ヶ月も路を人も車も野良猫も通ることはなかった。自動運転の車もまったく見かけない。カラスが飛んできたのは半年前だったが、すぐに去っていった。それから生き物らしいものが姿をあらわすことはない。大破したビルのガラスが飛び散り、鉄骨がポキポキと折れ曲がって道をふさいでいる。電柱が何本も倒れて電線がクモの巣のように絡みつく。ビルから道が大きく陥没しているのは地下階段の残骸のようだ。穴は傷だらけのエスカレーターから暗い地下ターミナル駅に続く。壊れた機械が堆積して、回路基板のICメモリから電子音が流れる。「発車サイン音が…」