勇者

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「今日は真っ直ぐ煙が上がってるなぁ」

川向こうに見える煙突の吐き出す煙を、
今いる病院のベッドから眺めるのが、
少女の何よりの楽しみだった。

白煙はほとんどが真っ直ぐ上がっていくが、
風の強い日などは大きく左右に揺らぐ。
そんな時少女は煙に声援を送った。

「煙さんガンバレェ!風に負けるなぁ!ガンバレェ!」

実は少女はそこが何の場所かを知らなかった。
だから少女は、ここを出られたら真っ先にそこへ行こうと決めていた。
それだけが、病魔と闘う少女の心の支えだった。

……だが数か月後、そこが何の場所かを少女は身を持って知った。

涙ながらに少女の名を呼ぶ人々の声に送られて、
少女はこの地でひと筋の煙となった。
おりしもこの地域には今、強風警報発令中。

だが、病に真っ向勝負を挑んだ少女の煙は、
強風などものともせずに、
堂々たる生前の態度そのままに、
天に向かって真っ直ぐ昇って行った。
その他
公開:23/06/14 18:31

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