Fast Fire

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 酸性紙で作られた本が、長期間のうちに粉々になってしまう問題を、ゆっくり燃えている事に例えて「スローファイア」現象と呼ぶ。
 今回、世界中を突如襲った災禍、つまり、酸性紙ではない本まで、ある日突然、ボロボロに崩壊し始めた現象を、スローファイアの対義語として、(一周回っているが)「ファストファイア」、または、小説『華氏451度』の中で、本を燃やす仕事に従事する主人公の名前をとって「モンターグ禍」と呼ぶようになった。
 ファストファイアは、原因が全く分からなかった。
 ある種のウィルスかとも思われたが、生物ではない紙の中で増殖できるウィルスはない。また、なんらかの化学反応も疑われたが、こちらも早々に手詰まりになった。
 そうこうしている内に、世界の紙の本が、次々と失われていった。電子化作業は、全く追いつかない。まるで、「これからの本は、紙か、電子か」と論争していた我々を嘲笑うかのように。
SF
公開:23/06/07 05:46

shimany( 京都 )

ライブラリアン/アーティスト/クリエータ

わが子達に刺激されて始めます。
もう少し長いショートショートは、こちらです。

https://note.com/shimany/m/m5c907af8f7c5

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