雪女

ドライブ中、運転手の彼から昔、雪女と出会った話を聞かされた。
誰にも話してはいけないと言われていたのに、彼はそれを話してしまう。
「今は初夏だから大丈夫さ」と笑う彼。開けた窓に山から寒い風が吹きつけてくる。
もしかしてこれ、雪女の仕業じゃない？そう思うも彼は涼しい顔だ。何も怖くないと車を走らせる。
さっきまで暑かったのが嘘のようだ。今日は真夏の暑さだと聞いていたのに凄く寒い。
彼は気にした風もなく車を走らせる。予定してた道を外れ、私の知らない道を進み始める。
ちょっと！どこ行くの？
前を指さす彼。目の前、凄く綺麗な景色が見えている。
…おかしい。さっきまであんな景色、影も形もなかった。
そう言えば聞いた事がある。蜃気楼。高密度の冷気層と低密度の暖気層の境界、光の屈折で起こる現象。丁度今、その条件が揃っている。
気付いたところで遅かった。車が宙に浮く。
目の前に道なんて、存在していなかった。