杓子将棋

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 縁側で男二人、夕涼みがてら将棋を指している。
 団扇で顔を扇ぎながら熊さんが言った。
「俺ぁね、長年疑問に思ってることがあるんだ」
「何だい? 言ってみな」
 相手を務める八つぁんが促す。
「何だって将棋の駒はこんな角の多い尖った形してやがんだい? 指に刺さって痛ぇんだよ」
「お前さんはそそっかしいからねぇ」
「別に丸い形でもいいだろう?」
「それじゃ碁を打ってるみてえだ」
「なら楕円だ」
「楕円の板を駒にするのかい? やり辛そうだ」
「じゃあ、しゃもじに文字書いて使うのはどうだ? 柄が付いてるから持ちやすいぞ」
「なるほど、そりゃ新発想だな」
「だろ?」
 さっそく熊さんはしゃもじを四十本買ってきて、畳二枚に墨でマス目を描いた。そして、女房に怒鳴られた。

 しゃもじ、すなわち杓子。
 融通が利かずダメなことを杓子定規というが、逆に柔軟すぎてダメなのを杓子将棋というのはこの故事による。
その他
公開:23/06/08 10:00
更新:23/06/08 13:01

真木真

上限400字。
普通に書く。文字数オーバー。削る。まだオーバーしてる。さらに削る。
そんな作業も楽しいです。
よろしくお願いします。

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