茶の実ずもう

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「あの時助けていただいたお茶の実です」
……はて? あの時とはいつの事だろう。
それに、「助けた」とは?
男の頭の中にはいくつか疑問が浮び、突然現れた美しい女に戸惑いもしたが、女の次の言葉に迷いは吹き飛んだ。
「お礼に何か出来ることはございませんか?」
「ホールを」
「え?」
「ホールを手伝ってくれ。接客だ」
男はオープンしたての店の仕事に大忙しだった。自慢のピザをアツアツのうちにお客様の元へ運ぶのだ。
作るのは、男。ホールに入る予定だったバイトの子は急病で休み。
そんなてんてこ舞いのオープン日。
男の所へ奇妙な女が現れたのだ。
渡りに船とばかりに接客をお願いすると、女はよく働いた。
女は次の日も、そのまた次の日も現れた。
二人でくたくたになるまで働き、店を閉める。そして女は一日の疲れを労うように一杯のお茶を淹れる。
それがまた実に美味いのだ。

男はこのお茶を一生飲み続けたいと思った。
公開:23/06/02 02:35

椿あやか( 猫町。 )

【椿あやか】(旧PN:AYAKA) 
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◆第18回坊っちゃん文学賞大賞受賞
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