海才

天才。普通の人とかけ離れた優れた才能を持っている人。
誰もがそんな天才に憧れる。その多くが凡才の壁に阻まれ、挫折する。私もその一人だ。
そんな私をその人は受け入れてくれた。
その人は天才と呼ばれる部類の人でありながら接しやすく、特別な才能は誰にでも備わっていると錯覚させた。
まるで海のような人だ。この人とならどこまでも行けそうな気がした。広く大きな才能で凡才を受け入れてくれる。この人の下で才能を開花させた者も多い。
海才。私はその人をそう呼んだ。実際、その人の才能には波があった。
その波は凡才を容易く飲み込む。息も出来ぬ海へと引きずり込む。
引きずり込まれた凡才は光の差さぬ深い深い暗がりでその一生を終える。
聞いた事がある。海は天以上に研究が進んでいないのだと。だから海才も底知れない。
天才と海才はよく似ているが全くの別物だ。
深みにハマるだけで水平線のように海と天が交わる事は決してない。