予感

トイレに入り、下着を脱ぎ、便座に腰を掛ける。
な～んか嫌な予感がするな～って、思っていると『ピンポ～ン』と聞こえた。はぁ…
便座から腰を上げ、下着を穿き、トイレから出る。
洗面所で軽く発声練習をしてから、玄関へと向かい、扉を開いた。

「強欲なる人間よ。願いの悪魔たる我に何を願う？」
威厳たっぷりに言い放つ。さっきまでトイレに入っていたなんて目の前の人間に感じさせぬよう精一杯、恐ろしい悪魔を演じる。
願いを告げる人間に私は契約書を差し出す。そこでふと気が付いた。
あれ？私、トイレ出てから手、洗ったっけ？
悪魔の契約書の内容に慄く人間。自らの行いに慄く私。
『願いの悪魔よ！今回はお引き取り願えないだろうか？』
「人間よ、今回だけだぞ」
渡りに船と言わんばかりに私は召喚陣の中へと、自宅へと戻り洗面所を確認する。
良かった～。手、ちゃんと洗ってた。悪い予感が当たらず、私はホッと胸を撫で下ろした。