予缶(よかん)

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最近ご無沙汰の飲み仲間が、酒の肴にと大量の缶詰めを送ってきた。
丁度晩酌のつまみを探していたところだ。缶ビール片手に物色する。大きさも形も様々な缶には、どれも一風変わったラベルが貼ってあった。

『幸先』と書かれた缶を開ける。ぱきんと開いたフタから青い鳥の羽が舞った。
『縁起』缶は熱々のお茶に茶柱が立っていた。ふうふう啜りながら開けた『ヤマ勘』からは、ぐしゃぐしゃに丸めた答案用紙が出てきた。
多分赤点だな。学生時代の試験を思い出して笑う。巨大風船がふくれる『胸騒ぎ』に、豆電球がピカッと光る『直感』。これだけは開けなかった『虫の知らせ』は、耳を付けると不吉なかさこそ音が聞こえてきた。

最後に残った『風の便り』を開ける。
フタの隙間をそよ風が吹き、懐かしい声が届いた気がした。
缶底に沈む麦の穂の切手を、未開封のままぬるくなったビールに貼る。
『今度飲みに来い』
住所に添えてマジックで書いた。
ファンタジー
公開:23/05/29 18:25
月の音色 月の文学館 テーマ:予感 朗読採用いただきました♪

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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