新芽かがやく八十八夜

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マリコが結婚する時、彼女の家族は猛反対した。相手は大きな茶農家の息子だ。ペットボトルのお茶しか知らない彼女がそんな家に嫁ぐのは無謀に等しい。結局マリコは半ば勘当同然に家を出た。

数年後に彼女の元を訪れると、マリコは広い茶畑を嬉しげに案内してくれた。怒られてばかりでさ、と日焼けした顔が笑う。青空の下で無愛想なお舅さんが「飲むか」と急須を突き出した。無骨な手で無造作に注がれたお茶の水色は澄んだ緑色だ。
「きれい…」
だがお舅さんは無言だ。仕方なく私も黙ってお茶を啜る。鳥の囀りだけが耳に響く。
「…たまには会いにきてやってくれ。親も故郷も捨ててきた馬鹿な奴だからよ」
不意にお舅さんがぼそりと呟き、また急須を差し出した。隣のマリコがえへへと笑う。

—五月に入ると毎年宅配便が届く。
『今年もいいお茶ができました。マリコ』
添えられた一筆箋の丸っこい文字も相変わらずだ。

夏がまた、近づいてきた。
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公開:23/05/31 22:21
更新:23/06/01 10:29
お茶祭り 八十八夜に入籍された 仲間を祝って おめでとうございます! 昔の作品を手直ししました

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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