茶柱が立つ

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「あら、茶柱が立ってる」
新居への引っ越しも無事に済み、報告がてら彼女の実家を訪れたときのこと。お茶を煎れてくれた義母が、目を丸くして言った。けれど湯呑みに茶柱らしきものはない。
僕の様子に気がついて、「違うの」と義母は手を振る。
「その茶柱じゃなくてね。お茶って、たまに柱が浮かび上がって見えることがあるのよ」
言われて彼女と目を凝らせば、たしかにお茶の中で豪奢な円柱状の柱が底へと延びていた。
「すごい」
重なった声に顔を見合わせると、仲よしね、と義母が微笑む。
どうぞと促され、並んだ夫婦湯呑みにふたり同時に口をつけた。
爽やかでまるい渋味、その奥の柔らかな甘みを感じながらふと湯呑みの中を見て、僕と彼女は「あっ」と声を揃える。
そこには引っ越したばかりの新居の大黒柱が、仲よく半分ずつぽっかりと浮かび上がっていた。
「これだけ立派なら安心ね」
義母の言葉に頷いて、今度は三人でお茶をすすった。
その他
公開:23/05/31 20:10
茶祭り

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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