道草もち

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箱根の旧街道でハイキングを楽しんでいると、峠の茶屋で急に足が止まり、そのまま一服となった。
なんの変哲もない茶屋で、なぜ立ち寄りたくなったのか自分でもわからない。
「いらっしゃい。お客さん、うちの名物は『道草もち』だよ。このあたりには道草が自生していていっぱいとれるんだよ」
「道草!? 寄り道のことでしょ。実際に生えているんですか」
「そうだよ。しかも『道草を食う』とは言い得て妙で、道草は食べられるんだよ。
道草もちは、よもぎ餅と作り方が一緒で、練り込んでいるのが道草なんだよ」
興味津々で道草もちを注文すると、見た目も味も普通の草もちだった。茶屋が繁盛している理由がわからず訝がっていると、
「この街道もそうだけれど、歩道、車道、鉄道、最近だと自転車道もあるね。『道』と付くところに道草もちを売る茶屋を出すと、吸い寄せられるように客がやってくるんだよ。あんたもその客のひとりだったというわけさ」
その他
公開:23/05/27 07:00
茶屋 道草 寄り道 よもぎ餅 街道 歩道 車道 鉄道 自転車道

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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