寝技

私の母は寝技が得意である。おっと、勘違いしてもらっては困る。そこにいやらしい意味など何一つない。
だが「寝技が得意」という噂が独り歩きしてしまっている母は時々、変な輩に絡まれる事がある。
そんな相手に文字通り寝技を繰り出す母。
地面や床に叩きつけられ、締め上げられる暴漢は簡単に意識を失う。母は相手をあっという間に眠らせるプロなのだ。
それは暴漢に限らず、ぐずる赤ん坊に対しても有効だ。さすがに子どもに暴力は振るわない。
母は優しく赤ん坊を抱きかかえると寝かしつけを始める。
絶妙な力加減に子守歌。すやすやと眠り始める赤ん坊はちょっとやそっとじゃ起きない。
その寝かせつけを伝授してもらいたい！そう願い出る者に母は快く自身の胸を貸す。
これも文字通りの意味で、母は大の大人を抱きかかえると寝かしつけを始める。体で覚えろという事なんだろうが、覚える前に眠りに落ちてしまう為、この睡眠学習は非常に難しい。