おひとついかがですか？

老婆の差し出すリンゴ。私はそれが毒であると知りながら口にした。
何でそんな事したのかって？仕事で遅くまで帰ってこない夫。ワンオペの育児。赤ん坊を背負っての家事。無遠慮な義家族。私はもう限界だった。
だから老婆の「おひとついかがですか？」という誘いに騙されていると分かっていながらも乗った。
ああ…予想通りだ。毒リンゴを口にした私は深い深い眠りへと落ちていく。
ここ最近、息子の夜泣きが酷くてあまり眠れていないんだ。これでやっと、眠れる…

目を覚ますと１時間も経っていなかった。夫が帰ってきたのか？
違う。そんな気配はない。じゃあ誰が…？と、考えていると息子が心配そうに私を見つめていた。
…そうか。真実の愛で私を目覚めさせてくれた王子様は君だったんだね。
息子が毒リンゴを口にしていなかった事に胸を撫で下ろす。
心優しい王子様には今からママが毒ではなく愛の籠ったリンゴをすりおろしてあげるとしよう。