喜怒哀楽草

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バイオ研究所に勤める植物学者の友人が語りだした。
「よく嬉しそうとか、怒ってそうとか、悲しそうとか、楽しそうとか言うけれど、あれは喜怒哀楽草を食べたからなんだ。
喜怒哀楽草は、人間が食べる野菜に寄生していて、普段は目に見えないものの、その効果は覿面だ。
実は、『名役者』と呼ばれている俳優は喜怒哀楽草入りの野菜を自家栽培しているんだ。だから、あんなに臨場感のある迫真の演技ができるんだ。
『大根役者』と揶揄される俳優の演技が急に上手になるのは、喜怒哀楽草入りの大根を毎日食べているからなんだ。
他人から楽しくもないのに楽しそうに見えると言われたことはないかい。あれは、知らないうちに喜怒哀楽草の一種である楽し草入りの野菜を食べてしまっているからなんだ。
そこで、この研究所ではバイオテクノロジーを駆使して遺伝子操作を行い、喜怒哀楽草に含まれるさまざまな感情成分を色で識別するための技術を開発中なんだ」
SF
公開:23/05/20 07:51
更新:23/05/20 07:59
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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