おひとついかがですか？

山猫軒のレシピ本を手に入れた私は、それを読んで何故あの店が客に注文を付けていたのかを理解した。
服を脱がす事で山道の泥や花粉を店内に持ち込ませない。バターを塗りこませて汗の臭いを封じ込める。金属を腐食させるスパイスなんてものもあるんだ…
山猫軒は拘りを持った料理店だった。
そんな拘りの料理を私も試しに作ってみた。
食材から調理時間まで事細かに書かれている。最初は苦労したさ。
でも、その注文の数々に応えた先の味に私は…私達は心奪われた。
最近では凝った料理も作っている。私の白髪を使ったサラダは家族にも好評だった。
夫の肩ロースステーキは、夫が美味い美味いと食べていた。それが夫の最後の晩餐となった。
夫のレバーを煮込んだスープに子ども達は「もっと食べたい」と言ってきた。
貴方も食べれば分かります。たった一口で常識や倫理なんて吹き飛びますよ。
さぁ、貴方もこちらの世界に。おひとつ、いかがですか？