おひとついかがですか？

「婆さんや。一つ、茶でも飲まんかね？」
上機嫌の夫が私に話しかけてきた。その顔を見るに相当いい茶葉が手に入ったんだな…
凝り性の夫。そこにつぎ込む金額を考えると頭が痛くなるが、折角の申し出だ。頂くとしよう。
そもそも私はお茶に興味なんてない。高級な茶葉を出されたところで、味なんて分からないのに…
ため息を吐く私の目の前に、透明のティーポットが置かれる。
茶葉だけでは飽き足らず、こんなものまで買って来て…
イライラする私に「見ててくれ」とニコニコ顔の夫。私の顔も渋いものに変わりそうだ…
ポットにお湯を注ぐ夫。途端、中に入っていた球状の茶葉がふわりと開くと透明なティーポットの中に花が咲いた。
「どうだい？面白いだろう？工芸茶っていう、芸術作品的な茶葉だ」
淹れられたお茶を口にする。ジャスミンの香りとすっきりした後味についポットを見つめてしまう。
「婆さんにも愛らしさが出たようだな」と笑われた。