手紙

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「パパとママに、おてがみ、おねがいします」

そう言って少年が、一通の手紙を差し出した。
シールで封を留めただけの、まさに『おてがみ』って感じの手紙だ。

「住所書かなきゃ、俺は届けられないよ」

そう言うと、少年は泣きそうな顔をした。そんな顔されたって、無理なもんは無理だ。俺はそう言ってその日の仕事を終え、帰宅し、テレビをつけたのだった。



次の日、少年はまたそこにいた。

「よお坊主」
「あ…」
「手紙、届けてやるよ」
「え、いいの?」
「おう」

少年は嬉しそうに、なんで?と聞いてくる。気分だと言ったら、少年はありがとうと笑った。



その日の夕方のニュースで、幼児誘拐殺人事件の犯人が捕まったと報道されていた。
遺棄されていた遺体も見つかったらしい。

「良かったな」

すっかり見慣れた、テレビの中の写真の少年にそう言うと、また、ありがとうと聞こえた気がした。
その他
公開:23/05/10 09:14

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