美字タリアン

妻は美しい文字しか読めない”美字タリアン”という美文字主義だ。
それ故に面倒臭い。走り書きのメモは勿論、息子の習字なんて目もくれない。
母親としてそれはどうなんだ？と喧嘩した回数は数知れない。
だがその分、綺麗な字を書いた時は凄く褒めるものだから、息子も母の美字タリアンを受け入れている。
「母さんはそういう人だから」と、苦笑いを浮かべる息子。
その姿は幼馴染である妻に振り回された過去の僕と重なった。
幼い頃から僕は彼女に振りむいてもらいたくて必死に綺麗な字を書く練習をしていた。
「手紙ってね、読むとその人の気持ちが伝わってくるんだ。私の事、こんなにも愛してくれてありがとう。私も大好きだよ」
妻には一生敵いそうにないな…

そんな妻は今日も送られてきた資料を確認している。
遺跡から発掘された文字らしきものの羅列。
妻は自身の才能を活かし、美術的価値のあるそれが古代文字かどうかを判別している。