おひとついかがですか？

「桜の枝、おひとついかがですか？」
差し出されたそれを私は購入する。枝には蕾が沢山ついており、この様子だと娘が大学合格する頃にはサクラサクだろう。
玄関に枝を飾り、咲くのを今か今かと待ち望んでいた。
しかし、蕾は花を咲かせる事はなかった…枝の蕾は枯れ落ち、娘の大学もそれに合わせるようにサクラチル。
腹が立った。縁起でもないものを渡してきた桜の枝売りに。
だから八つ当たりと分かっていながらも私は桜の枝売りに文句を言った。
「娘さんが大学に落ちた？それは誠に残念…でも、大丈夫だと思いますよ」
コイツは何を言っているんだ！他人事だと思って！
『もうやめて！そもそも私、大学なんて行きたくない！美容系の専門学校に行きたいの！』
娘の今更の告白にぽかんとする。
「その枝、見て下さい。新しい蕾、一つつけていますよ」
私はため息を吐くと娘の専門学校受験を許した。

その蕾が開く頃、娘の笑顔も満開となった。