おひとついかがですか？

刺激が足りない。今一楽しくない。物足りない。
「おひとついかがですか？」
露天商に声をかけられた。
差し出されたのは調味料の小瓶。TVで紹介されていた奴だ。折角だし買ってみるか。
その調味料は食事で私が感じていた今一を補ってくれた。

「おひとついかがですか？」
翌日も露天商はいた。
差し出されたのは経営学の本。仕事に役立ちそうだし買ってみた。
その本に書かれていた事を実践すると、仕事で抱えていた今一の不満が解消した。

「おひとついかがですか？」
露天商はトランクを差し出した。
中を見ると初恋の人が入っていた。食事に仕事、ついには恋か。
露天商のおかげで私の人生、足りないものが全て手に入る！

初恋の人は私の部屋から仕事のデータと金目のものを盗み、消えた。
あの人は足りないものを私から奪っていったんだと後で気が付いた。
まあいいか。露天商がいる限り、足りないものは何でも手に入るのだから。