かすめる

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海へ帰れない人魚が漁師の妻に囁いた。「あなたが『漁師の妻』を辞めたいなら、私の毒であなたの夫を殺してあげる」
だって、優しいあなたが辛い思いをしているのはイヤだから。
波のように揺れて光をあつめる髪と海の深い緑をした瞳を女は静かな眼差しで見つめていた。火花がぱちっと音を立てた。
「今はいい」
「今は…?いずれ…?」
漁師の妻は人魚を風呂に入れて、髪を念入りに洗った。潮の香りが落ちるように。
この町で、そんなことができるはずもないのに。
公開:23/04/29 10:11

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