ほしいもの

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海を捨てた人魚に、網本の息子が豪奢な着物を着せた。髪を結い上げて、街へ出掛けて、隣を歩かせた。人魚はきちんとした身なりで歩くことに慣れておらず一日の終わりにはくたびれてしまった。男は家で休ませたが人魚が男の話しも聞かず船を漕いだり、夜は波の音を聞きに帰ってしまったのでたいそう腹を立てた。
日に焼けた体躯の立派な若い漁師が海から真珠貝を集めて、虹色に輝く貝の殻で腕飾りを作った。人魚の腕にそれをそっとはめて、髪に触れようとしたが、人魚はかつての友人を思い出して言葉を失っていた。
ぼんやりとした顔の人魚を漁師の妻が見つけて、その日は温かい腕物をともにした。もう会えなくなった子ども時代の友だちの話をしながら。
公開:23/04/29 09:46

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