空き地にて

住宅街を歩いていると男がひとり何もせず立っている。近づくとどうやら道端で空き地を見ているらしい。不動産屋風ではなく、散歩中の中年男性といった感じ。男の隣に立って同じように空き地を見てみた。空き地は空き地で何もない。「何がみえますか？」と男がきいた。「さあ、別に、空き地ですね」私が答えると、男は「私には水族館の水槽に見えます」という。「え？」ときくと。男は「ゆったりした水流のなかに魚は一匹もいない水族館の水槽が見えます」そう言うと男はすたすたと行ってしまった。
私がそのまま空き地の前で立っていると、ショッピングバッグをぶら下げたコンビニ帰りの老婦人がやってきて私にきく。「何かみえますか？ただの空き地でしょう」私はおもむろに老婦人に言った。「鳥かごにみえます。庭木に吊られた鳥かごには鳥が一匹もいなくて扉を閉ざして風に揺れている。そんな鳥かごがみえます」そう言うと私はすたすたと歩き去った。