殺人医師、その動機と衝動

　帰宅途中、医師はとある一軒家で奇妙な光景を見かけた。裸の男の子が、庭のガラス戸の前で正座をしていたのだ。親に叱られでもしたのか?　そう思っていた次の日も、次の日も、次の日も、男の子は裸で正座をしていた。注視すると、戸の向こう側では両親と思われる男女がゲラゲラと談笑している。男の子は俯いたまま正座を崩さず、細かく体を震わせている。
　その時、医師は特に何も思わなかった。虐待だと警察に伝えるだとか、男の子に優しい言葉をかけるだとか、親に注意するだとか――そのような考えに逡巡する瞬間さえなく、特に何も、なんとも思わなかった。

　ただ「次はあのコの親でいいや」と呟いただけだ。
　それから、医師は男の子と家族のことを隅々まで調べ、地下室、ロープ、拷問道具を準備し、そして――どう殺すかのプランを粛々と準備した。

　決行前日、またも裸で正座する男の子を見る。
　僕は舌で唇を、ゆっくりと舐めた……。