おひとついかがですか？

悩みを相談すると祖母は決まって花の種を一つ私にくれた。
この花の種は植えても芽が出ない。これは食用の種である。
５歳、種を口にした。
引っ込み思案で言いたい事が上手く言えない私に会話の花が咲いた。
咲きすぎてしまい、今ではすっかりお喋りおばさんだ。
１０歳、種を口にした。
恋の花がどんなものか、その時初めて知った。
父に「お前にはまだ早い！」って困り顔で言われたっけ。
１７歳、種を口にした。
人間関係に疲れていた私は笑えないでした。
感情の花が咲いた時、私は怒っていいんだと気が付いた。ぶつかり合って芽生えるものを見つけた。
３４歳、種を口にした。
効果の出ない不妊治療に諦めかけていた時、やっと私のお腹の中の子種が芽吹いた。
あの時溢れた涙はこの子を大きく育てる水となった。
９０歳。私は皺だらけの手から種を一つ生み出し、孫に渡した。
私という枯れた花から取れた種を孫は嬉しそうに受け取った。