配り者

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昔、仕事の同僚に配り物の好きな男がいた。
取り立てて気前が良いわけではなく、そこにある物を分配するのが好きなのだ。試供品のサンプルや、業務連絡のプリントや、誰かの旅行土産や。いつも何かしら配り物を抱えては、『おひとついかがですか?』とデスクを渡り歩いていた。
几帳面なのか、仕切り屋なのか、あるいは単に人から感謝されたかったのか。『ありがとう』と受け取ってやると、もらった相手より嬉しそうな顔をする男だった。

だが、新商品の生命保険を『いかがですか?』とやられた時は、さすがに私も断った。
その一件を機に彼は配り物をぴたりとやめ、以後すっかり疎遠になってしまった。

時は流れ。不慮の事故で現世を離れた私は、三途の渡し賃の持ち合わせがなく、川岸で難儀していた。
その時、聞き覚えのある声と共に肩を叩かれた。
「おひとついかがですか?」
配り物好きの同僚が、あの嬉しそうな顔で六文銭を差し出していた。
その他
公開:23/05/01 18:18
月の音色 月の文学館 テーマ:おひとついかがですか?

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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